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「細い手首に、よく似合ってる」
「…………ありがとうございます」
「パシャは嫌いなの?」
挙げられた、同ブランドの別銘。最もポピュラーで高価なのはやはり、パシャだろう。気付いていたよ、と、とても遠回しに質問も兼ねて言うやり方がスマートだ。
「そうですね……嫌いというわけではなくて。細長い、四角が好きなんです」
ふふふふっ、摂の回答が気に入ったらしい、露木が肩を揺らす。
「パシャを贈ろう、と言おうと思ってたんだけどなあ……」
冗談だろう。愉快そうにそう言って、笑いを含んだままの声で時計の針を読み上げる。
「十一時、過ぎですか」
「ええ」
「お開きでもいいけど……泊まっていく気はある?」
露木がもう片方の指で天井を指すのに、摂はゆっくり頷いた。
ここでも一枚のカードで支払が済まされ、店を出てエレベーターに乗る。取られていたのは、ごくノーマルなランクのツイン・ルームだった。カードキーで開いたドアに摂を通して、後から露木が入室する。彼はそのまま摂の横に並び、通り過ぎ、数歩歩いて振り返った。
「二見さん?」
返事を待つ数十秒の間。
「どうしたの……?」
不審そうに問われて、摂は救いを求める気持ちで露木を見返した。
「……ごめんなさい、やっぱり」
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