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もう以前から、いつかは、と思っていた展開だ。うぶではないし、彼が最初ではもちろんない。ジェネレーション・ギャップに時々ほんの少し失望させられるが、それが彼への嫌悪感に変わることはなかった。なのに、入り口に立ちすくんだまま一歩も踏み出せないのだ。どうしたらいいか、自分で自分を持て余して、祈るように両手をぎゅっと握り合わせる。
そんな摂に、露木はがっかりした様子を隠さなかった。
「…………そうかあ、だめか」
「気を持たせるつもりはなかったんです……ほんとうに、なんで、こんなことに」
混乱気味に弁解しようとする摂を、落ちつきなさい、片手で制して露木が宥めるように笑いかける。
「僕は、悪女なきみでもいいけど?」
「悪女……」
「セカンド・キープでも構わないよ」
摂は自分を、貞節な男だとは思っていない。その提案はだから決して、突拍子のないものではなかった。でも――。
「…………正直に告白します。とても魅力的だと、思ってしまいました」
「ということは、か」
「…………すみません」
謝罪はそれを拒むこととイコールだ。
俯いていた摂には、そう言った時の露木がどんな表情だったのかはわからない。かすかな衣擦れの音に、ベッドに腰掛けたのだと判って顔を上げる。身体を斜めに捻ってこちらを見ていた露木は、ため息を吐くと同時に肩を竦めた。
「まあ。仕事には持ち込まないから、安心して」
「あなたは素晴らしい人ですね……」
「嬉しくないよ」
感じ入って言う摂に、苦笑いの彼がゆるゆると首を振って、片頬を手で撫でる。
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