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 ワイシャツ一枚だったせいで、早朝の冷え込みに一度目が覚めたが、布団にもぐりこむとまた深い眠りに落ちたようだ。次に目が覚めたのは、正午を二時間以上回った時刻だった。二日酔いというほどの感覚はなく、少し胸焼けがする程度。しばらく怠惰にベッドの中で過ごし、それにもいつか限界が来て這い出す。ペットボトルを一本飲み干すと今度はトイレに行きたくなり、臓器は正常に働いているようだった。  シャワーを浴びようと服を脱ぎながら、腕時計を嵌めっぱなしで寝てしまったことに気付く。留め具を外したそれを洗面台の上に置いて、バスルームの扉を開けた。  面倒くさがりな性格なので、髪は自然乾燥させることが多いのだが、今はいつまでも濡れたままでいるわけにはいかないのでドライヤーを使う。  フィルムを開けたまま食べかけの栄養補助食品、チョコレート味のビスケットを空っぽの胃に入れて、エネルギー充填。セーターにカラーデニムのパンツ、それからクローゼットにかけたファー付きのダウンジャケットを羽織る。去年買って大して着ていないそれを、この冬ヘビー・ユースの一着にしようと決めていた。車のキーは持たずに部屋を出る。教会へは、電車で行くつもりだ。日が暮れてしまうだろうが構わない、着く頃には息からアルコールも抜ける。  マンションから駅までは少し距離があるので、歩くと二十分以上かかる。それでもシェイプアップのための有酸素運動としては、不足なくらい。  駅名を確認しながら券売機にコインを入れていると、駅ビルの店舗からかすかに音楽が聴こえる――メル・トーメのスタンダードなジャズ・ナンバーだ。このバージョンでボーカルを取っているのはフランク・シナトラのようで、歌声はどこまでも甘い。想像は外れたらしい、今年最初にクリスマス・ナンバーを届けてくれたのはWHAM!ではなかった。
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