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 それに笑って、ストーブの正面を摂に譲るように立ち上がったノアの足元から、一匹の猫が現れる。痩せ気味の三毛猫だ。するするり、脚の間を縫って、澄ました足取りで入り口の向こうに消えて行くスマートな彼(彼女?)を、ふたりして黙って見送る。ノアの足元に見える小さな器が、彼が何をしていたのか摂に知らせてくれていた。 「飼ってたの?」 「いや、お客さん…………摂、ほっぺた真っ赤」  皮膚の色素が少し薄いせいと、赤みがかったストーブの火のせいで、彼にはきっと、とても真っ赤になって見えているのだ。 「冷たいもん。凍って落ちそう」  ストーブにかざして温めた手のひらで、両頬を包む。できることならこのストーブを抱きしめたいと心から思う。そんな摂を、ノアは気の済むまでストーブの前に置いてくれた。濡れたダウンはビニール地なのですぐ乾き、冷たくなった指先や顔が、じわじわと温まっていく。 「何か飲む?」  何か温かい物でも、という意味だろう。 「じゃあ、そのミルクを」  床のミルク皿を指差してやると、ノアは仕方のないことを言うなあとばかりに眉を下げた。 「摂は猫だったんだね」 「あはは、飲まないって。ありがと平気、ここあったかいから」 「うん。野良猫と似てる、摂は」  あれ、噛み合っていない。 「……んーん、褒めてる?」  首を傾げる摂に、ノアは生真面目に言った。 「そうでもないな。ふらっと来て、ふらっと来なくなる。気まぐれで、なんて言うか……」 「薄情」 「違うって。そういうの、とても寂しい」     
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