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「……フリーだと、聞いたけど?」
「フリーだよ」
「じゃあなぜ?」
「……こんなのって、ノアには許されないはずだ」
摂が変わらずに無知でも、知っていることだってある。ノアの信じる神様は、案外に理解のない存在なのだ。その上摂は、敬虔でも貞淑でもなければ、正直者でもないのだから――この後に及んでも、彼には潔白な身の上だと思われたい。
怖気づく摂を、ノアは簡単に笑い飛ばした。
「言ったでしょう、良い信徒ではないって。だから、そんな顔しないで」
返事は待たずに、大きな手のひらが摂の頬を包む。
火照って熱いくらいだと思っていた頬が、実はまだとんでもなく冷たかったのだと、ノアの皮膚とその下の温度で気付かされる。うっとりと目を瞑り彼の脈を追いかけると、長い指が、同じように冷え切った耳を労るように撫でてくれた。
「ノア、辛くないの……?」
「とても辛かった時もあるけど、今はそれほど。両親を裏切っているし、神に背いてる…………でも愛しているから、みんな」
前にもそう言った、でも愛してる、と。なんて勁い言葉だろうか。
彼の愛を享受できるすべてのものに、今なら嫉妬できる。
「……ねえ、俺のことは?」
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