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しっとりと湿った唇を、そっと離す。
睫毛と睫毛が触れ合う距離で見詰め合っていると、ノアが思い出したと片眉を上げる。
「そうだ今日」
「んっ?」
「ジンジャーマン・クッキーを焼いたらしい」
保存食としても優れているクッキーは、早めに焼くのが伝統のようで。摂の家でも十二月に入って早々に焼いていたと記憶している。
「約束忘れてない? ちゃんとリザーブしてくれた?」
「ララがね」
その名前に、少し気後れして彼女の息子を見る。
「お気に入りなんだ、摂のこと」
ちらりと笑ったノアが摂の指先を握り、軽く引いた。
「おいで。猫のミルクじゃなくて、もう少しまともなものを用意するから」
「ミルクがいい」
「そうなの?」
「うん」
へーえ、ノアが感心したように頷く。
そのまま手を引かれて、礼拝堂の通路を前と後ろに並んで歩いた。
「ここさあ……バージン・ロードになるんだよね」
「なに?」
「…………なんでもない」
出来映えの悪い冗談に摂が恥じ入っていると、大きな背中が、小さく震える。
「聞こえてたけどね」
「信じられない……!」
<終わり>
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