7

7/7
前へ
/97ページ
次へ
 しっとりと湿った唇を、そっと離す。  睫毛と睫毛が触れ合う距離で見詰め合っていると、ノアが思い出したと片眉を上げる。 「そうだ今日」 「んっ?」 「ジンジャーマン・クッキーを焼いたらしい」  保存食としても優れているクッキーは、早めに焼くのが伝統のようで。摂の家でも十二月に入って早々に焼いていたと記憶している。 「約束忘れてない? ちゃんとリザーブしてくれた?」 「ララがね」  その名前に、少し気後れして彼女の息子を見る。 「お気に入りなんだ、摂のこと」  ちらりと笑ったノアが摂の指先を握り、軽く引いた。 「おいで。猫のミルクじゃなくて、もう少しまともなものを用意するから」 「ミルクがいい」 「そうなの?」 「うん」  へーえ、ノアが感心したように頷く。  そのまま手を引かれて、礼拝堂の通路を前と後ろに並んで歩いた。 「ここさあ……バージン・ロードになるんだよね」 「なに?」 「…………なんでもない」  出来映えの悪い冗談に摂が恥じ入っていると、大きな背中が、小さく震える。 「聞こえてたけどね」 「信じられない……!」 <終わり>
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加