絶対服従1

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 マタイによる福音書の、クリスマス劇のシナリオとしてもあまりに有名なストーリー。三人の博士がイエスに贈ったのは、黄金、乳香、没薬、古代のクリスマスプレゼントだ。昼間に行われた子供達のための礼拝には演劇がプログラムに組まれているが、今から行われる礼拝に演劇はない。家族で参列する信徒も多いのだが、夫婦や恋人のカップル、それに友人どうしといった大人達の数の方がずっと多いのが実際のところ。この日だけは、と普段の礼拝には来られない信徒が久し振りにやって来る時期でもある。  簡単にそう説明すると摂は、ふうん、と気のない生返事をした。 「じゃあ。なにすんの?」 「……クリスマス・イブはね、燭火礼拝」 「しょくか?」 「んー、キャンドルサービス」 「あぁ」  ようやく満足する回答を得たのだろう、機嫌良く頷く摂のウェーブヘアーがゆるやかに揺れるのを観賞しながら、話題をより日常に戻す。 「どう……忙しかった?」 「あーもー、ちょー忙しかった!毎日、忘年会のはしご」 「ああ、そうだね、そんな時期」 「はしご、やったことある?それぞれの立場で気の遣い方変わるから、すっごい疲れる。社風で呑み会の感じ全然違うし、ふつうにイッキやるとことかあるし、信じらんないよ体育会系」  こんなふうに喋っていると、嘆く口調は呆れるくらい子供っぽいのだけれど。彼は大手電機メーカーの営業マンなのだ。想像するしかないのだが、おそらくかなりのエリート。彼が給料を顧みないほどのカー・マニアでないのなら、まさに今乗りつけた車がステイタス・シンボルのひとつになる。 「お疲れさま……」 「うん」  形式的な労りの言葉にも、摂は嬉しそうに頷いた。     
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