絶対服従1

6/10
前へ
/97ページ
次へ
「エフラタのベツレヘムよ……」  から始まる、ミカ書のごく短い一節を唱えると、ここで燭火を灯すための儀式が行われるのだ。各列の端から、一人一人に蝋燭が手渡される。全員に行き渡ったところで礼拝堂の電気は消え、聖壇の左右に灯る数本の蝋燭の明かりだけが頼りになった。切った画用紙をゆるく巻きつけて単純なガードを施してあるこの蝋燭に、端からやはりリレー形式に、炎を移していくのである。  ぼう、ぼうっと、小さな明かりが、礼拝堂のあちこちで灯り始める。  ノアの列でも右端から炎がリレーされて、自分がその火を受け取れば、次は摂だ。 「素手?」 「そう」 「熱くない?」 「大丈夫」  蝋はたいてい途中で冷えて固まるし、そうならなかった時のために画用紙が巻いてある。 「……ね、やって」  危険はないという言葉を信じない彼は、疑い深く、怯えた目つきでノアを見上げた。納得するまで言い含める時間がないので、薄明かりの中でもそうと判る白皙の、繊細な手から蝋燭を取って、自分の蝋燭から火を移す。じり、芯の燃えるかすかな音と同時に、ぼんやりした色合いの火が灯り、またひとつ教会に明かりが加わった。これをこのように片手に持って、最後までいなければならない。 「ありがと……」     
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加