絶対服従1

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「どういたしまして」  うっとりと燭火を見つめる摂の横顔が、ゆらゆらと、柔らかい色に揺られてる。  普段は黒に近い紫色の布を基調にしている聖壇は、今日と明日だけ、全面が真っ白な布に変わる。蝋燭の明かりがよく映えるという、素晴らしい副作用もあるのだった。  イザヤ書から一節の聖句。それを聞き終えると、賛美歌の合唱になる。94番、久しく待ちにし。  ―――進行の基本は、新旧の聖書からイエスの降誕にまつわる一節を読み上げ、その後に賛美歌を合唱する、この二つをワンセットにして何度も繰り返すことにある。この教会を練習拠点にしているゴスペル・クワイアのアマチュア団体が、聖壇の前に並んで盛り上げてくれるので、賛美歌を知らないからといって恥ずかしがる必要はない。摂にはどうやら五線譜を読む能力があるらしく、初見で賛美歌をさらりと歌って見せるのだから、驚いてしまう。  聖書と賛美歌のローテーションを何度か繰り返し、賛美歌109番、彼がたとえ五線譜を読めなくても歌えるだろう、清しこの夜へのイントロダクション。  一番を歌い終わり、短い間奏に差しかかった時だ。  肘を軽く小突かれ、 「……ん?」  声を聴き取り易いようにと彼の口元に耳を寄せる。     
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