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摂は無言で手に持った蝋燭を押しつけると、仕方なくそれを受け取った恰好のノアを置き去りに、席を立ってしまった。慌てて、けれど一瞬考え込み、結局は両手の蝋燭の火をそれぞれ吹き消して、ノアは礼拝堂を出て行く背中を追いかけた。
「摂っ……」
ごく小さな叫びだが、静かな夜空の下に自分の狼狽えた声が響く。ダウンのジッパーを上げながら振り返る摂の肩を、執り成すために掴む。
「……何か、気に入らないことが?」
「ううん、すごく楽しい」
なぜそんなことを?と言うように、摂が目瞬いて、微笑む。
「けど帰るよ」
「飽きてしまった?」
「ちょっと眠くなりそうだと思ったのは認めるけど、違う、言っただろ楽しいって。ねえ、あとどれくらいかかるの?」
「……礼拝自体は、そうだな、あと三十分くらい」
「そのあと何かあるってこと?」
「茶話会が……でも強制じゃない」
考え直して、と戸惑って挙げた右手は、摂によってあやすように握られ、押し返される。彼の行動を正確に予測することなんて、自分には不可能だ。摂は素早くノアの唇を盗み、笑うのだから。
「……摂」
「俺は先に帰るけど。遅くなってもいいから、来て」
「……うん?」
「ただし、悪い子になっちゃだめ。最後まで礼拝に出て、パパとママと、ちゃんとイブを過ごして。それから……今夜は帰らないって上手に説明してから、来て」
理解するのに、少しの時間を与えてもらう。
やがて、
「……難題だな」
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