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ほのかに感じる、複雑な香り。生まれた瞬間から、彼の舌はこの味だったのではないかと錯覚してしまうくらい似合っている。そう、フルーツキャンディーの味だ。ゆっくり吸い上げてから唇を離し、うっすらピンク色に染まる頬にキスをした。
にっこり笑った摂に、ノアは右手の袋を差し出す。
「献上品です」
「さんきゅー。みすた・さんたくるーず」
ごめんねと滅多に言わない男は、ありがとうを躊躇わない性格なのだ。
嬉しそうに中を覗き込んで、また、顔を輝かせる。
「もしかして、ほんとに全部の味?」
「さあ。店にあったのは、それで全部」
ぎゅうっと、正面から両腕で抱きつかれて、テディ・ベアになった気分がした。しばらく胸に頬を擦りつけてからノアを解放し、摂はテディ・ベアを暖かい部屋に通す。
「コートはそこに。あ、帽子とマフラーもね。いつまでもハンサムを半減させないで」
「ははっ」
広いリビングダイニングだ。キッチンとの境のカウンターには、呑みかけのグラスが置かれている。摂がそのグラスを取り上げて、呑みながらキッチンへ周って行く。新たに彼が作りなおす作業を覗き見したことで、グラスの中身が明らかになった。
冷蔵庫の真ん中の段にアイスを放り込み、一番上から銀色の缶、一番下の段からボトルを取り出す。まず最初に黒ビール、次に、シャンパン。対比は単純に一対一で、それを混ぜずに呑むらしい。
「一杯いかが?」
「へえ、何?」
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