山笑う

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真っ暗だったそこに電灯が点けられ、 ヒンヤリとした空気が漂う。 …洗面所。 手を洗えという意味か? しかし、それならそうと言って欲しい。 見知らぬお宅でいきなり洗面所って、 と、戸惑うじゃないのさッ。 「ほら、手を出して」 「え?あ、わあ…」 泡状のハンドソープだったらしく、 いきなり手の平に白い球体が乗せられた。 続けてオバさんは自分の手にも泡を乗せ、 私の隣りで指示を出す。 「はい、ゴシゴシゴシ」 「えっと、はいゴシゴシ」 「次!指と指の間!ゴシゴシゴシ」 「あのう…。でも既に公園で肉まんを 洗ってない手で食べましたよね?」 「爪の間!ゴシゴシゴシ。 それはそれ、これはこれよ~。 あとね、今からウチの孫を見せるから。 清らかな赤さまを守る為にも頑張って!」 「赤ちゃんじゃなくて、赤さまですか?」 ザバザバと泡を洗い流していると、 ドアをノックする音がした。 「はい、開けても大丈夫よ」 「あのう…雅さん…」 「あら!安田くん、どうしたの?」 「その…ですね…」 安田くんと呼ばれたその人は、 爽やかな感じの好青年で。 子供がテストで満点を取ったかのような ウキウキっぷりでオバさんに報告し出す。 「水産会社の得意先がズワイガニを 安く売ってくれると言うので、 4杯ほど買って来たんです。 冷蔵庫に入らなかったのでシンクに 置きっぱなしなんですけど…」
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