山笑う

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『あらあら』と他人事みたいに呟いて、 …まあ、実際に他人事なのだが。 とにかくオバさんはコンビニ袋の中から 中華まんを2つ取り出した。 「うふっ。あのね、ウチの娘が言うには、 ここのコンビニの肉まんがとんでもなく それはもう最高に美味しいんだって。 だから、スーパーの帰りにしょっちゅう 買いに行ったんだけど、ほら、夕方って 学生さんたちが寄り道して買い食いする 時間じゃない? いつ行っても売り切れだったのよね。 それがね、今日は1個だけあったの! あなた可哀想だから半分あげる」 思わず私は固まった。 この状況でいきなり肉まん? しかも丸々1個じゃなくて半分なんだ? う、ええっ? なぜ残り1個も真っ二つにしてるの? 「こっちは、あんまん。 だってほら、しょっぱいのを食べると 甘いのが欲しくなっちゃうでしょ?」 「そ…あ、確かに」 『確かに』じゃないしッ。 何なの、このオバさん?! もうペースに巻き込まれるんですけどッ。 考えてみたら3時間も泣き続けたせいか 妙にお腹がすいた気がする。 そっか、泣くのって体力を使うんだな…。 そんなことを考えていたら無意識に その白い半円の物体を受け取っていた。 久々に食べる中華まんは、 まるで空気みたいにフワッフワで。 商品開発に命を懸けているであろう、 見知らぬ誰かに敬意を払いつつも 思いっきりかぶりつく。
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