山笑う

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「うん。お父さんも安田さんも帰ってる」 「や、安田くんはウチの子じゃないから。 『帰ってる』というのは変でしょう?」 「いや、でもそのくらいの頻度でいるし。 ウチの旦那が僻んでるわよ、 『安田くんの方が気に入られてる』って」 「まあ、それは事実だしねえ…と、あッ。 ごめんなさいね、紹介がまだだったわ! 唯、こちらは私のお友達のサトコちゃん」 ここで私は間髪入れずに訂正する。 「サトミです」 「あら?そう、そうだったわね。 サトコだとピンクの象になって 薬局の前で立つことになっちゃう」 「あはは…って、面白くないです。 初めまして、長山里深と申します。 長年交際していた彼氏と私の女友達が 浮気している現場を目撃してしまい、 公園で号泣していたら偶然通り掛かった お母様が肉まんを分けてくれました」 「あ!美味しかったでしょ?あの肉まん」 そ、そこ?? 自分の母親の奇行よりも そっちに食い付くワケ?? 動揺しつつも頷くと 女神は品よくペコリとお辞儀をし、 自己紹介を始めようとしたらしいのだが、 長身の男性がそのタイミングを奪う。 「唯?寒いから早く中に入りなよ。 風邪を引いちゃうぞ」 ブーッ。 …脳内で架空の鼻血が吹き出た音である。 だってコレ、女神の旦那だよね?? 女神の対義語って男神? それとも単なる神なワケ? とにかく端正な顔立ちで、 しかも渋いのに母性本能を擽ると言うか。 美男美女の組み合わせって卑怯だと思う。 などと思いながらボーッとしていると、 再びオバさんが私を強引に 奥の部屋へと放り込んだ。
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