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塀の片隅にこっそりと付けられたインターホンを押す。すると、スライド式の懐かしい玄関のガラスから光が漏れ、ガラガラと音を立てながら開かれる。
「おかえり。 十年ぶりぐらいかねえ」
「ただいま。 婆ちゃん」
中から現れたのは祖母だった。亡くなった祖父の家にずっと住み、今もなお元気でいる姿を見るのは12,3年ぶりだ。
普通のサラリーマンになって以来、私はどうにもこの家に行くことが出来ずにいたからだ。
会いに行くといったのに、行けなかった。行こうとしなかった。そのことが心のどこかで申し訳ないと思っていたのだろう。
祖母は私を快く家の中に招き入れてくれた。そして、とある一室を見せてくれた。
「ここは?」
「あんたの爺さんの部屋だよ」
「でもこの服って……」
その部屋には映像とかでよく見る航空自衛隊の服やボロボロになったヘルメット、昔の航空機の模型などがずらりと並んでいた。
「あんたの爺さんは昔、パイロットだったのさ」
「あの爺さんが?!」
「……? ああ、そうか。 あんたが生まれた時には病気で寝込んでいたのか」
祖母が少し悲し気な表情を浮かべる。
私は少し気になっていたことを祖母に聞いた。
「何で爺さんは航空機のパイロットに?」
すると、祖母は部屋を出ていき庭へと私を誘い込む。
そして空を見上げ、細々とした腕を空に向けて指した。
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