【第4話・序章】「20年前」

33/60
前へ
/1230ページ
次へ
「コンパスだ! これは舵輪!」  アドビスはゆっくりうなずきながら、目を細めた。 「ああそうだ。こいつには船乗りに必要な知識が、ぎっしり詰まっている。私の宝物だ」  瞳を宝石のようにきらめかせ、はや期待に胸を踊らせるヴィズルに本を手渡す。ヴィズルは両手にそれを持ったまま、うっとりとした微笑を浮かべた。 「ありがとう」  アドビスはヴィズルの肩に手を置いた。 「難しい所やわからない言葉は船長に教えてもらうんだ。彼女もまた、優秀な船乗りだからな」  ヴィズルはうなずきつつも、瞳を伏し目がちにしながら、手にした本とアドビスの顔を交互に見比べていた。
/1230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加