【第4話・序章】「20年前」

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「うう……」  喉の奥から絞り出すような、小さなうめき声がした。  アドビスは物思いから我に返り、身じろぎするヴィズルを見つめた。  彼はサファイアのような夜光石の瞳を見開き、口元をわずかにかみしめて、じっと見下ろすアドビスに驚いたような表情を浮かべている。 「大丈夫か? どこか痛い所はないか?」  わずかに眉間をしかめたヴィズルに優しく声をかけ、アドビスは寝ぐせのついた銀髪をそっとなでた。 「やっぱり来てたんだ、アドビス」 「ああ」  ヴィズルは二、三度目をしばたくと、スカーヴィズに扉で殴られた鼻へ手をやり小さくうなった。 「くっそーー船長ったら、加減なしだぜ! 思いっきり鼻うった……」  のろのろと寝台から起き上がり、未だ涙目のヴィズルを見て、アドビスは思わず微笑した。 「お前が――生意気にのぞき見なんてするからだ」 「ちがうよ! オレは……その……」  ヴィズルは全身で反論しつつ、やはり心当たりがあるのか、褐色の肌のうえからでも容易に分かる位、頬を赤らめている。
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