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「うう……」
喉の奥から絞り出すような、小さなうめき声がした。
アドビスは物思いから我に返り、身じろぎするヴィズルを見つめた。
彼はサファイアのような夜光石の瞳を見開き、口元をわずかにかみしめて、じっと見下ろすアドビスに驚いたような表情を浮かべている。
「大丈夫か? どこか痛い所はないか?」
わずかに眉間をしかめたヴィズルに優しく声をかけ、アドビスは寝ぐせのついた銀髪をそっとなでた。
「やっぱり来てたんだ、アドビス」
「ああ」
ヴィズルは二、三度目をしばたくと、スカーヴィズに扉で殴られた鼻へ手をやり小さくうなった。
「くっそーー船長ったら、加減なしだぜ! 思いっきり鼻うった……」
のろのろと寝台から起き上がり、未だ涙目のヴィズルを見て、アドビスは思わず微笑した。
「お前が――生意気にのぞき見なんてするからだ」
「ちがうよ! オレは……その……」
ヴィズルは全身で反論しつつ、やはり心当たりがあるのか、褐色の肌のうえからでも容易に分かる位、頬を赤らめている。
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