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「もうしないよ……でもアドビス。オレ、船長にどうしても言いたい事があって、それで外にいたんだ。ティレグ副船長が、酒飲んでたから……だから」
アドビスはヴィズルの瞳を見ながら、ゆっくりとうなずいた。
「そうか。副船長は―――私を嫌っているからな。それで荒れてたんだろ」
「でもオレはアドビスのこと、嫌いじゃないよ」
ヴィズルが濃紺の軍服のすそをつかんだので、アドビスは寝台の縁にそっと腰を下ろした。
「それにさ、アドビスは船長のこと好きなんだろ? だから海軍なのにここへ来るんだろ? だったらそんなものやめて、ここにいればいいじゃないか!」
「ヴィズル……」
アドビスはしばし声を失って、身をすり寄せるヴィズルを凝視した。
「嫌いじゃないって言っただろ? そりゃ船のみんなも好きだよ。わけもなく俺の事怒鳴ったりしなけりゃ、いつもはにぎやかで楽しいんだ。でも……」
ヴィズルは小さな体をふくらませて、大きくため息をついた。
「ただそれだけなんだ。あいつらは金を積んだ船のことや、酒の事しか頭にない。オレはもっといろんなことを知りたいのに。海賊以外の――いろんな事」
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