【第4話・序章】「20年前」

26/60
前へ
/1230ページ
次へ
「もうしないよ……でもアドビス。オレ、船長にどうしても言いたい事があって、それで外にいたんだ。ティレグ副船長が、酒飲んでたから……だから」  アドビスはヴィズルの瞳を見ながら、ゆっくりとうなずいた。 「そうか。副船長は―――私を嫌っているからな。それで荒れてたんだろ」 「でもオレはアドビスのこと、嫌いじゃないよ」  ヴィズルが濃紺の軍服のすそをつかんだので、アドビスは寝台の縁にそっと腰を下ろした。 「それにさ、アドビスは船長のこと好きなんだろ? だから海軍なのにここへ来るんだろ? だったらそんなものやめて、ここにいればいいじゃないか!」 「ヴィズル……」  アドビスはしばし声を失って、身をすり寄せるヴィズルを凝視した。 「嫌いじゃないって言っただろ? そりゃ船のみんなも好きだよ。わけもなく俺の事怒鳴ったりしなけりゃ、いつもはにぎやかで楽しいんだ。でも……」  ヴィズルは小さな体をふくらませて、大きくため息をついた。 「ただそれだけなんだ。あいつらは金を積んだ船のことや、酒の事しか頭にない。オレはもっといろんなことを知りたいのに。海賊以外の――いろんな事」
/1230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加