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アドビスは感嘆していた。幼いながらもヴィズルの向上心に。
確かにスカーヴィズを含め、彼のまわりの大人達は自分のことで忙しい。ほんの六才の子供にすぎない、ヴィズルに構っている時間はあまりないのだ。
そのかわり、甲板掃除とか船鐘を鳴らすとか、ロープの整理とか、彼でもできる雑用はしっかり押し付けてやらせていたけれど。
アドビスがヴィズルに声をかけたのは一年前。
誰にも相手をしてもらえず、彼は船首の舳先の上に乗って、じっと波間を見ていた。
初めはただの時間潰しだった。アドビスはヴィズルを呼び寄せて、ポケットに入れていた簡易コンパスを彼に見せてやった。そして、どうやって船が針路を決めて航海するのか話してやったのだ。
金色に輝くコンパスの針に、ヴィズルは同じように瞳をかがやせて、アドビスの話に聞き入った。それがヴィズルに物事を教えるきっかけとなった。
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