【第4話・序章】「20年前」

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「私がここにいれば、いずれ船長やお前達に迷惑をかけることになる。だから、今日を最後に、私は二度とここへは来ない」  アドビスがそう言い聞かせると同時に、ヴィズルの瞳が見開かれた。  子供ということを忘れさせるほどの力で、肩に置かれたアドビスの手を振り払って叫ぶ。 「迷惑って? どんな? なんで急にそんなこと言うんだよ! なんでだよ!」  アドビスは膝をついたまま、どう答えるべきか悩んで目を伏せた。  いつかは来るべき時だ。それが早いか、遅いか……ただそれだけの事。  小さな拳を握りしめて、身を震わせていたヴィズルが、ぱっとアドビスの首筋に飛びついてきた。 「……やだよ。そんなの、やだよ。オレを置いていくなよ! アドビス……」  ヴィズルはアドビスにしがみついてつぶやいた。  やがてその声がすすり泣きに変わっていく。  アドビスは黙ったまま、ヴィズルの体に腕を回してしばし、その嗚咽が止むまで抱きしめてやっていた。ヴィズルの涙と鼻水が、ブラシをかけた濃紺の艦長服へ、染み込んでいくのも構わずに。
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