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「私がここにいれば、いずれ船長やお前達に迷惑をかけることになる。だから、今日を最後に、私は二度とここへは来ない」
アドビスがそう言い聞かせると同時に、ヴィズルの瞳が見開かれた。
子供ということを忘れさせるほどの力で、肩に置かれたアドビスの手を振り払って叫ぶ。
「迷惑って? どんな? なんで急にそんなこと言うんだよ! なんでだよ!」
アドビスは膝をついたまま、どう答えるべきか悩んで目を伏せた。
いつかは来るべき時だ。それが早いか、遅いか……ただそれだけの事。
小さな拳を握りしめて、身を震わせていたヴィズルが、ぱっとアドビスの首筋に飛びついてきた。
「……やだよ。そんなの、やだよ。オレを置いていくなよ! アドビス……」
ヴィズルはアドビスにしがみついてつぶやいた。
やがてその声がすすり泣きに変わっていく。
アドビスは黙ったまま、ヴィズルの体に腕を回してしばし、その嗚咽が止むまで抱きしめてやっていた。ヴィズルの涙と鼻水が、ブラシをかけた濃紺の艦長服へ、染み込んでいくのも構わずに。
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