【第4話・序章】「20年前」

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「――私のような……船乗りにか?」 「そうだ」  アドビスはその場に膝をついたまま、じっとヴィズルの藍色の瞳を見つめていた。やがて手を伸ばし、目の縁からこぼれ落ちそうになった涙のしずくを、人差し指でそっと払った。 「お前にやろうと思って……これを持ってきた」  アドビスは軍服の内ポケットに右手を差し入れ、そっとヴィズルの目の前に差し出した。アドビスの大きな手の中に収まるぐらいのサイズの本。  元は緋色の皮表紙だったそれは、アドビス自身が長年使っていたため、年月と共に、艶のある茶色へと変わっている。 「何の本だい?」  すっかり泣き止んだヴィズルは、吸い寄せられるようにそれを凝視した。  アドビスは本をヴィズルの方へ向けて、ページをめくってみせた。  ややクリームがかった紙に小さな活字がびっしり印刷されていて、所どころ、ヴィズルでもわかるような図解や絵が入っている。  ヴィズルは絵より文字の分量が多い事にだんだん眉をしかめたが、とあるページの絵を見て、この本が何であるか理解したようだった。  思わず彼は褐色の指をのばし、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
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