87人が本棚に入れています
本棚に追加
/1230ページ
グローリアス号。そう名付けられたかの船の濃紺の帆はきれいに畳まれて、羽根を休めている海鳥のように、ゆらゆらと波間を漂っている。
鮮やかな碧海の上を。
その青とも緑ともいえない、澄んだ水面がきらきら光る様を、ヴィズルは黙ったまま眺めていた。無意識の内に上げた右手で、左脇腹の辺りを押さえながら。
「エルシーアの海は……気に入らねぇな……」
唇の端でつぶやく。
嫌な奴を思い出してしまった。
自然と顔がひきつってきて、ヴィズルはため息をついた。
『君の方こそ、ロワールの居場所を俺に教えて、エルシーアから立ち去れ!』
夜の闇を焦がさんばかりに燃えるファスガード号のマスト。それが松明のように炎上するオレンジの光の中で、自分を見据えていたシャインの瞳――。
エルシーアの海の色……。
最初のコメントを投稿しよう!