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あれから一ヶ月以上が過ぎた。
ヴィズルは押さえていた右手の力をゆるめ、そっと左脇腹をさすった。
あの時、シャインから受けた刀傷は肉が盛り上がって、跡はあるが治っていた。意表を突かれ一瞬焦ったものの、元々深い傷ではなかったのだ。
ヴィズルは視線を脇腹へ落とし、苦々しく眉をひそめた。
怒りのあまり総毛立つ程の震えと、腹の奥からたぎる熱が蘇ってくる。
――お前に罪があるとすれば、あの男の息子だということしかない。
私怨がない故、いくばくか罪悪感を感じてはいた。けれど迷いはなかった。
ヴィズルとしては海軍に留まる回答をしたシャインは、今後自分の計画を邪魔される存在になる。
しかし、シャインに止めを刺すべく繰り出した、その一撃が外れた瞬間。
ヴィズルは再びシャインに剣をふるう事ができなかった。
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