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決してシャインの眼差しに怖じけついたわけでもないし、情に流されたわけでもない。
悟ったのだ。この時、死んでいたのは自分の方だったのだと。
優美なラフェ-ルの細剣は、ヴィズルの左脇腹をえぐったのではなく、かすめるように切り裂いていた。最低限の傷で済むように。ヴィズルが死なないように。シャインが致命傷を与えまいと、手加減したのは明白だった。
「ふざけやがって!!」
ヴィズルは右足を後ろへ素早く引くと、思いきり足元の砂を蹴り上げた。乾いた白い砂はぱっと宙を舞い、波しぶきのように太陽の光を受けて輝く。
ざんばらの灰色を帯びた銀髪が、ヴィズルの鬼気迫る顔にまとわりつき、そのいらだちを更につのらせる。
なんのために?
お前を憐れんでいたのは俺のはずだ。
それなのに……。
顔にかかった銀髪を荒々しくかき揚げ、ヴィズルは大きく息をついて頭を振った。
砂を踏み締めるかすかな音がしたような気がする。
不意に人の気配に気付いて、ヴィズルは後ろへ振り返った。
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