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「何をそんなに荒れてんだ? ヴィズル……いや、スカーヴィズ船長」
野太い声の主は、がっしりした赤銅色の肌と髪をした副船長のものだった。
「ティレグ……か」
ヴィズルは少し乱れていた息を整えながら、こちらへ近付いて来るティレグへ返事をした。
二十年前、エルシーア海賊を一つにまとめた“月影のスカーヴィズ”の元で副船長を務めた人物で、今はその跡目を継いだヴィズルに付き従っている男である。
まるで本当の弟のように、目をかけてくれた彼には少し恩義を感じている。
航海術の先生としては役不足であったが、剣術、体術問わず戦いの方法をヴィズルに教え、東方連国へ潜伏していた時も、<赤熊のティレグ>という名前のおかげで、向こうの海賊との交渉が有利に動いた。
四十才を過ぎたティレグは、髪に白いものが混じり始めたが、自慢の体力はまったく衰えを見せていない。ヴィズルはスカーヴィズの跡目を継ぐのは、彼の方がふさわしいと一旦自ら辞退した。
だがティレグは自分の酒癖の悪さを上げ、自分が仕込んだヴィズルに跡目を継いでもらった方が、先代スカ-ヴィズへのはなむけになると答えたのだった。
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