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「体はもういいみたいだな。怒る元気があるなら大丈夫だ」
しわが目立ちだした目元を細め、ティレグは唇の端を吊り上げてにやりと笑んだ。
「……ちょっと嫌な事を思い出しただけさ」
ヴィズルは肩をそびやかして、拗ねた笑みを浮かべた。
馬鹿な所を見られてしまった。いつものことなので、ティレグは敢えて言わないが。
「嫌なことか。まあ、そうだな。この島に来れば……嫌でも昔の事を思い出しちまう」
ティレグが針金のように生えた顎鬚へ小指のない右手を添えた。
ヴィズルはいつになくそのがっしりした手を見つめた。
先代・月影のスカーヴィズに劣らぬ剛剣使いであるティレグ。彼の小指は切り落とされたのだという。だが誰にいつ切り落とされたのか、本人もよく覚えていないと言う。
この二十年。再びエルシーアで海賊として立ち上がるために、いろんな事を共に乗り越えてきた。お尋ね者だったティレグは、賞金稼ぎにいつも追いかけ回されて、たいていは返り討ちにしたものの、いくつも生傷を作っていた。
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