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俺は聞き返しながらペットボトルの蓋を開ける。それに口を付けながら、アオの言葉の続きを待った。
「お金持ちになりたいとか、お花屋さんになりたいとか、お医者さんになりたいとか、そんな風にいくつも願い事が思い浮かんだのに、どうしてこんなに現実的になっちゃったんだろうね」
僕はしばらく、考えた。その間は沈黙が流れる。
「……確かに、俺も小さい頃は夢が一杯あった気がする。パイロットになりたいとか、ヒーローになりたいとか」
「え、意外。あんなに大人しい男の子だったのに、ヒーローになりたかったの?」
「大人しかったから、逆に憧れてたんじゃないのかな。あの頃の純粋な気持ちなんて、もう思い出せないけど」
ベンチに置いた、ノートや参考書が詰まった重たいカバンを眺めながら、俺は言った。
「現実的になるっていうのが、大人になるってことなのかもね」
「大人に?」
「そう。夢とか希望とか憧れとか、そういうものを自分の居る現実にどうやって持ってくるか、考えるようになることがさ。あの仕事に就くためにはこういう技術が必要で、その技術を習得するためにはこんな方法があって……っていうのが、今の俺らには調べられるし、理解できるだろ」
「……そうだね」
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