青に白

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◇  野球に限らず、スポーツにはイップスという病気がある。精神的な原因で、思うように体が動かせなくなるのである。  前の回、レフトフライで凡退したときに薄々気が付いていた。  空が、見えない。  視線が上に向かないのである。  太陽が怖いなんて、そんな感情は持っていない。ただ、空を見ようとすると、身体が言うことを聞かなくなる。泥沼に頭まで浸かって、体中に重たいものがまとわりつく。首の関節が無くなってしまったかのように固定されてしまう。  空が、見えない。  言うまでもなく外野手として致命的だった。血の気が引く思いがした。身体は熱く、鼓動も早いのに、流れる血が冷たくなるように感じられた。  異常を確信したのは、回が始まる直前だった。守備に入るとき、いつも僕は太陽の位置を確認する。それがどうしてもできなかった。誰かに言い出す間もなかった。  ――集中しろ。  不安を拭うように、一度屈伸して、構えた。そして、願わくは自分のところには飛んでくるななんて弱気な祈りを捧げた。  しかし、野球には神様はいない。いるのは悪魔だけだ。     
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