"夏目 翡翠”

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目を開くと、其処(そこ)は見知らぬ天井だった。 上からヨハネスが覗き込んでいる。 ゆっくりと身体を起こすと、ヨハネスがベッド脇の小机からグラスに入った水を差し出してくれた。 「おはようございます。体調はどうですか?気分が優れないようであれば遠慮せずに云って下さい。」 そして、思い出した様に付け足す。 「あ、あと、目出度(めでた)く、今日が試練初日です。他の2人も、今日から開始です。人によって開始日が違ったりはしませんので、安心して下さい。」 ヨハネスが、テンポ良く説明しながら、部屋の隅に移動する。 部屋をよく見渡してみると、無機質な生活感の無い部屋だった。 高層マンションだろうか?ベッドの後ろ側の壁は無く、壁一面全て大きな硝子(ガラス)のはめ込まれた窓だった。窓から見える景色は、私の様な庶民には今迄見たことも無い様な絶景で、人間が米粒のようだった。小さなサイズで、忙しなく動き続ける街並みは、精巧に造られたミニチュア模型の様だ。 (いく)ら見ていても飽きない。 学校の教室程の大きさがありそうな広い部屋は、焦げ茶のフローリングにアイランドキッチン。 落ち着いた、暗めの肌色の壁紙が隙間なく貼られた壁には、大画面の壁掛け4Kテレビが備え付けられており、()れに向かい合う形で3人がけの落ち着いた瑠璃色(るりいろ)のソファが置いてある。 が、それ以外に生活する上で必要そうな物は一切見当たらず、まるでモデルルームの様だった。 一通り見終わると、ヨハネスが、片手に見覚えのある1冊の本と、お洒落な手鏡を持ってやって来た。 ヨハネスから手渡されたのは本の方ではなく、手鏡だった。 渡された手鏡を覗き込むと___
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