3:無期懲役の孤独

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3:無期懲役の孤独

 俺の場合拙かったのは刑事裁判ではなく収監後だった。俺が手に掛けたデリヘル嬢とボーイのデリヘル店が某指定暴力団のシマに該当していたのだ。俺は刑務所に収監されている暴力団員に報復を受ける可能性があった。いや、実際に報復を受けた。  2週間前は機械加工工場に居たのだが、暴力団員から嫌がらせを受けたので俺は気に入らず、その暴力団員に駆け寄って殴り倒した。予想を超えた騒動になり、刑務官達も対応が遅れた。  俺は昔プロボクサーだった。階級はミドル級。俺より強いプロボクサーはいっぱい居る。国内チャンピオンや世界チャンピオンがどれだけの選抜を潜り抜けて来たか、俺はこの身で思い知っている。本当にねぇ、テレビで試合するようなプロボクサーは物凄く強い。だから、負けたり情けない試合を見せたりしても酷評しないでくれ。彼らは本当に強いのだから。俺の戦績なんて負けの数の方が多いし、そういうボクサーの方が世の中には圧倒的に多いんだ。  ただ引退後も俺は身体を鍛えていたから一般人より遥かに強い。その日、俺は暴力団員16名に重軽傷を負わせたところでようやく刑務官が止めに入った。俺は独居房と云う名の懲罰房に変えられた。  俺は刑務所のルールに反して、刑務官の見ていない隙や消灯中を狙って身体を鍛え続けていた。日本では囚人の筋トレが禁止されているが、高齢化した際に腰痛に悩まされると聞かされていたからだ。俺は脱獄するためではなく、腰痛を防ぐために身体を鍛えていた。  俺には罪を反省する意味が全く無かった。無期懲役だから運が良くても仮釈放は20年後だ。世間一般はよく誤解しているが、俺の身を請け負える親族などが居なければ仮釈放は行われないので、日本の無期懲役も実質的には仮釈放の無い終身刑と同じである。  俺は面会に来た家族から縁を切ると宣言された。妻には離婚届を突き付けられ、子供にも二度と会うなと念を押された。 「加害者本人は国が守ってくれる。でも家族はそうじゃないのよ!」  妻に怒鳴られた。結婚した身でありながらデリヘルに通うと不貞を犯し、おまけに殺人まで働いた。塀の外でかなりつらい思いをしたに違いなかった。暴力団員には強く言えても、家族には言えなかった。 「ごめん……」  俺は謝罪したが、元妻は二度と会いに来なかった。
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