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7:隠されている「あるモノ」
俺は本音で答えた。
「俺には待つべき時間も分からなければ出所を待ってくれている家族や友人も居ない。だから、まぁ何とかして此処から出たいって気持ちは分かります」
「そうだろ!? そうなんだよ。俺達は『待つ』なんて何の意味も無いんだ。ダラダラ年取って88番の爺さんみたいに死ぬだけだ。教祖の49番みたいにすぐに出られるわけじゃねぇんだ。141番、なんとか此処から脱獄する方法を考えようぜ」
「やめてください」
「ふざけんな。もうお前らも共謀罪だぜ。俺達は黒羽刑務所からの脱獄を計画した仲間だ。何があろうと絶対に俺は此処から出るぜ」
「そんな!」
「いや、待ってくれ」
「何をだ!?」
「刑務官が来る!」
176番が合図する。揃って沈黙する俺達。足音が聞こえて来た。俺達は欠伸を掻いたり、無言を貫いたりして、廊下を歩哨していく刑務官をやり過ごした。足音が遠くなると、189番は再び話し始めた。
「お前らは刑期を待てば良いだけだ。だが俺達には待つべき時間も、待っていてくれる人も居ない。141番が言ったように、俺達にはこの方法しか無いんだ!」
俺はそんなこと言っていないのだが、そういうことと言ったことにされていた。そんなことにいちいち抗議などしていられなかった。すると、1番若い287番が言った。
「いや、皆さんにも待っていてくれる人は居ます」
「誰だ!?」
「僕です」
俺も189番も言葉を失った。
「僕ってどういうことだ?」
287番は語り掛ける。
「埼玉県川越市大堤周辺に『迷路公園』と呼ばれる公園があります。僕は、公園に在る象の滑り台の下に、あるモノを隠しています」
「隠している!?」
「一体、何を隠しているんだ?」
「それは教えられません。ただし、これだけは言えます。皆さんは必ず刑期が終わるのを待っていて下さい。僕は、象の滑り台の下にある物を置いておきます。其処に僕達の友情の証がありますから、皆さんは必ず罪を償って、刑期を満了して下さい」
287番は翌日、刑期を満了して黒羽刑務所から出所して行った。
8年後、176番が刑期を満了して出所して行った。
オリジナルメンバーは189番と俺だけになった。
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