白昼スカイドリーム

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「でも、もう選んだよ。生き損なったとしても、死に損なったとしても、それはもう、私が決めたこと」  誰のせいにもしない。その代わり。 「限定メニューじゃなくてもいいから、フラペチーノ、飲もうね。奢るからね」  奢るからね、を強調する。女の子は堪らないといった様子で失笑した。 「そんなに執着する? 奢ってもらえるならいいけどさあ」 「する。してる」  飲みに行く? という一言が、どうしようもなく嬉しかった。奢りたいのは、年上の見栄と、誘ってくれたことへのせめてもの感謝。 「オッケー。奢ってもらうぶんくらいは手伝おうか」  くく、と笑いを殺して、女の子は数歩先へ。 「観覧車が見える範囲に、おっきな病院がある。入院してるのは多分そこ。部屋までは分からないから」  そこで言葉を切った後ろ姿が、ふっと反転する。  逆上がりの要領で、軽く地面を蹴った女の子はくるりと天地を逆転させた。後ろ姿は、今は真正面。逆さまに宙に浮いた彼女は、 「探しに行こうか。夢の景色を」  私に、手を差し出した。  夢の景色。それと一致する場所が、恐らく私の身体がある病室。夜景が見えるくらい高い窓は絞れるから、ひとつひとつあたっていけば、きっとみつけられるだろう。でも。 「いいの?」  思わず聞いてしまう。だって、この子がすごく目立ってしまう。現に、浮き上がった瞬間に周囲の通行人が驚いた顔で見上げた。大抵のひとはそのまま歩き去っていくけれど、数人、スマフォを向けている。通りすがりの無遠慮に、憤りと、それより大きな悲しさと、彼女への申し訳なさが込み上げた。 「いいよ」  女の子は、周りに目もくれない。 「浮くのなんかめんどくさいだけなんだから、使えそうなときを逃したくないじゃん」  不敵な笑みとは、こういう眩しさをいうのだろう。  私は、希望の手をとった。 「ありがとう」  逆さまの手は、お互いに握るのが難しくて、手首同士を掴んだ。地面から足が離れる。電線の隙間を縫って、高く。  秋晴れ、青く澄んだ空の下。  地に足がついてちゃ、一生見えない景色が眼下にある。  空と地の間、どちらとも呼べないその高度で、私たちは、私のいる病室を探す。  そして。
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