白昼スカイドリーム

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 今日も、誰ともしゃべれなかった。  溜め息をつく。座り込みそうな心細さや寄る辺なさも、吐き出せてしまえば楽になれるのに。  晩秋、短い夕焼け。赤と橙のグラデーションはすでに空の端。街には街灯の灯りが等間隔に並び、薄闇を歩く人々の輪郭を保っている。ひょう、と、ビル群を風が吹き抜けた。寒々しい音から逃げ出そうと、重たい足をぺたぺたと数歩。私は、一番近かった街灯の下で立ち止まった。  大学でできた、友達と呼べる数人の顔を脳裏に描く。地もとの友達。両親。明日は誰かと話せるだろうか。思い描いた顔触れがいい、なんて贅沢は言わない。お話しして仲良くなりたい、なんて願望は持たない。せめて一言だけでも、誰かと言葉を交わせたら。  また出そうになった溜め息を、呑み込もうと上を向く。するとふと、視界の風景に違和感を覚えた。  点々と明かりのついたビル。黙々と役目をこなす信号機。黒々とシルエットを浮かび上がらせる電線や看板、標識。  それらの上。  空を染めていく夜にとけるように、逆さまの女の子がいた。  二度、三度と瞬きをして、ついでに目をこすってみたけれど、女の子は消えたりしなかった。何かの間違いにしか思えないこの光景は、錯覚じゃないらしい。呆然とみつめる先で、女の子は悠々と空を歩いている。逆さまで。  その子だけ、世界の重力や法則なんかの向きが反対になっているようだ。肩より少し長めの髪も、見かけたことのあるどこかの高校の制服のスカートも、地面に引っ張られてはいない。空中歩行している姿を水平に鏡で映せば、普通に地上を歩いている様子になるだろう。でも、頭に血が上らないのかな。いや、『上る』と表現するのはおかしいのかもしれない。だってあの子の頭は下にあるから。  あべこべの景色は混乱する。ふにゃふにゃと、取り留めもない思考を遊ばせていたら、ふらりと何気ない調子で、女の子が地上を見た。
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