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どっちでもいいよ、と、女の子はトレイの上に片づけを始めている。目を丸くして、答えに迷っている私に構わず、てきぱきと。ああ、もう片づいてしまった。私は、答えは、どうしよう?
「いきたくない理由があるなら、それはそれでいいし。いきたい理由なら、フラペチーノが飲みたかったから、でいいんじゃない」
「いいのかな」
「かっこよくはない」
笑ってしまった。でも、そうかあ、と安心した。
かっこよくなくても、いいのかもしれない。もとから今さらではある。住んでいるところから小一時間離れた隣街で事故に遭って、身体を抜けて迷子になって、年下の女の子に助けられているんだから。
「選べるよ。幸か不幸かは置いといて。どうする?」
トレイを持って立ち上がった女の子。問いかけに、うなずいた。
いきたい、と。
「私、どこにいるんだろう。病院だとは思うけど」
決めたからには、帰る身体をみつけなければ。ファストフード店を出て、あてもなく周囲に視線を彷徨わせた。女の子はスマフォを耳に当て直す。
「さっき、夢をみるって言ったよね」
「え? うん……夜景の観覧車の夢」
「想像だけど、窓から観覧車が見える病室にいるんじゃない、あんたの身体。意識があるかないかで見た風景を、幽体離脱してるあんたが夢みたいな感じで受け取った、ってとこなのかな」
「そっか。……すごいね」
筋道立った推測に思える。素直に感嘆した。
「幽霊とか、詳しいの?」
「逆に、そもそも私が幽霊だったらどうする?」
面食らった。考えてもみなかった。女の子は目を細めて、唇に薄く弧を描いている。
「それか、上手いこと丸め込んで、あの世に連れて行こうとしてる死神かもよ」
戸惑いつつ、彼女をみつめる。へにゃりと、我ながら締まらない表情に顔が綻んだ。
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