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「おはようございまーす、荻野先輩」  翌日、登校の途中の校門付近で、見知らぬ生徒に声を掛けられた。  ただの挨拶程度なら今までも珍しくは無かったが、そいつの態度は明らかに、本題に入る前にとりあえず挨拶しておきました、という雰囲気だった。  見たことのない後輩に声を掛けられるのはそれほど珍しいことではないが、今のオレの置かれている状態はいつもと少し様子が違う。  信じ難いけど、告白される可能性も無きにしも非ずだ。 「おはよう。で、そういうお前は、どこの誰だ?」  挨拶しながらも、昨日武威に言われた事を思い出して少しだけ警戒を見せる。  と言っても、相手はウチの学校の生徒な訳だし、やけに好意的な感じなので、用心する必要はそれほど無いとは思うんだけど。 「二年の山岸です」  オレより頭半分高い位置から、イイ感じにブレザーの制服を着崩した後輩は朗らかにそう名乗った。  学年で違う、制服のネクタイのラインの色を見ると紺色で、確かに二年生のようだ。  ちなみに、三年生はエンジ色で、一年生は深緑色だ。 「山岸くんね。それで、用件は?」  訊きながらゆっくり歩き出すと、山岸もそれに続いてオレの隣を歩く。 「田辺から聞いていません?」  山岸は「おかしいな」と言うように、田辺の名前を出した。  田辺の知り合いか? 「何を」  と、訊いてみたところで、思い当たる節があった事に気づいた。  そう言えば、田辺が「会いますか?」と言っていたな。  田辺のクラスメイトで、自称・例のカードの差出人。  オレとしては、もっと違う形での対面を想像していたからちょっとした不意打ちを食らった感じだ。 「ポストカードの告白の件ですよ」  もしかしたら違うのかも、と迷っていた思考を打ち消すように、山岸は明朗にそう言った。  やはりそうだったか。  しかし、昨日の今日(しかも朝)では早すぎる。  田辺とこの話をしたのは、昨日の放課後だぞ。  朝一でやってくるとは、話の伝達が異常なくらいに早い。  そこまで急がなくてもいいのに。
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