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「先輩たちが、どこでどうやって襲おうかって話してるって蔵原の耳に入って、ブチ切れた蔵原が先輩の所に乗り込んだって、かなり有名な話だけど」
そんなに有名な話だというなら、どうしてオレが全く知らないんだ。
オレの事なのに。
誰も教えてくれなかった。
武威も何も言わなかった。
「それで、乗り込んでどうなったんだ?」
恐る恐る訊く。
そんな昔の事、今更知ってどうなるという訳でもないけど。
思わず、過去の武威の心配をしてしまう。
「荻野が何も知らずに、無事に過ごしているっていうので分かるだろ」
声音から、宮永が呆れているのが分かった。
確かに、オレは今まで身の危険を感じた事なんて一度もなかった。
それは、自分がそういう事とは無縁だと思っていたからだ。
校内で話題になる人たちとは違う、平凡なただの生徒なのだと疑った事などなかった。
武威に護られていたから平穏な日々を過ごせていたなんて、思いもよらない。
「本当に、蔵原が気の毒だよ」
温度の無い冷たい言葉を残して、宮永は教室に入って行った。
宮永に言われる筋合いはないけど、言ってもらわないと知らないことだった。
また一つ、武威に訊かなければならない事が増えてしまった。
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