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こちらの不満をスルーした山岸は、持っていた袋から、菓子パンを2つとおにぎりを1つ、それに500ml紙パックの麦茶を取り出した。
「お前、いつも昼飯はそんなのなのか?」
思わず訊いてしまったのは、あまりにもバランスが悪そうだったから。
毎日がこれでは、健康状態を考えるとちょっと問題がありそうだ。
その割に、体格はオレよりいいのが癪だけど。
山岸は自分の持ち物を見て、オレが言わんとしている事を察したように「ああ」と呟いた。
「まぁ、大体は。学食もいいけど、混みますからね」
菓子パンの入っている小袋を開けながら、面倒そうに言う。
「俺、寮生なんで、昼はこうなっちゃうんですよね」
なるほど。
寮生なら、弁当を持ってくるのは難しそうだ。
様々な事情を考慮して、ウチの学校には寮がある。
利用している人数はそれほど多くないが、近年(と言ってもオレが入学するより前の話だが)建て直したようなので、確かまだ綺麗な建物だった筈だ。
二人一部屋が基本で、各部屋には風呂、トイレ、冷暖房完備だとか。
主に、運動部員や、実家から通うのが不便な生徒が入寮している。
そう言えば、田辺も寮生だったよな。
同室の奴が煩くて寝不足だ、とよく欠伸をしていた。
物理的には快適でも、共同生活は色々と大変なのだろうな。
「実家は遠いのか?」
「遠いっすよ。電車で約5時間。新幹線込み」
それは異常に遠いな。
でも、だったらもっと近い学校を選べばよかったのに。
「と言っても、俺の生まれた家じゃないんですけど」
考えが漏れたのかと思うようなタイミングで山岸がそう付け足した。
何やら家庭の事情がありそうな展開になり、相槌にも気を遣う。
「親の転勤があったんですよ。俺が中学に入る直前に」
もしかして、とてもマズイ事を訊いてしまったのではないか、と心配したが、山岸は相変らずの軽い口調でそう付け足した。
転勤か。
それならそう珍しくもない上に、デリケートな問題でもなさそうだ。
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