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「こっちでは借家に住んでいたんですけどね。永住覚悟な転勤だったから、親たちは向こうで一戸建て買って住んでいます。転勤が決まった時、俺はもうこの学校の入学が決まっていて、寮があるなら寮でいっか、って感じで急遽こうなりました」  山岸は簡単に言うが、家から出て暮らした事のないオレには、考えられない話だ。  しかも、予想外の展開で。  完全な一人暮らしじゃないから、それほど重大な事ではないのだろうか。 「入学したばっかの頃、オレが何考えていたか教えましょうか?」  やけに勿体ぶった訊き方をするので、気になって素直に頷いといた。 「絶対無理だ! ってずーっと思っていました」  山岸は、へらりと笑って肩を竦めた。 「だって、小学校卒業したてのガキが、親元離れていきなり初対面の他人と一緒に暮らして不安じゃない筈ないじゃないですか」  山岸は笑いながらそう言うが、当時は大変なストレスだったのだろうな。 「ちゃんとやってけんのかなぁ、ってその時の俺には深刻な問題だったんですよ」  その言い分はよく分かる。  ちょっと親類のお宅にお泊りとは訳が違うからな。  ただ、どれくらい深刻な問題なのかというのは、経験した事のないオレには計り知れない。 「やっぱ親のトコに行こうかな、って弱気になった時に、和海さんを見ました」 「オレ?」  流れ的に、今の話にオレが登場するとは思っていなかったので驚いた。  しかも「見ました」って、絵とかテレビじゃないんだから。 「入学式の時が最初です。和海さんは新入生の案内か何かやっていて、コケたんですよ、盛大に」  山岸の人生にオレがどんな登場の仕方をするのかと思って、黙って聞いていればそんな昔の事を穿り返しやがって。 「手に持っていたプリントをぶちまけて、大騒ぎして」 「・・・よく憶えているな、そんな事」  オレも、言われるまで忘れたのに。
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