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 あれは中2の春で、初めての下級生が入ってくるというのでちょっと浮かれていて、何もない所で躓いたんだったよな。  しかも、その日はそれだけじゃなかった。 「あと、体育館でも椅子に足引っ掛けて転んでいましたよね」 「・・・・・・そう、だったかもな」  どんどんイヤな事思い出してきた。  パイプ椅子って、倒れると大きな音がするんだよな。  おまけに体育館は音が響くし。  大注目浴びまくっていたな。 「入学式だけじゃなくて、その後も、見かける度に和海さんは何かいつも失敗しているんですよ」 「いつも・・・」  そんなに言われるほど、失敗・・・しているけど。  よくコケるし、ぶつかるし。  その割にはあまり怪我をしないから気にしてなかった。  でも、「見る度に」とか「いつも」っていうのは言いすぎだろ。 「だけど全然めげてなくて、毎回同じような事やっているんですよね」  山岸は笑顔で感心したように言うけど、これっぽっちも褒められてない。  むしろバカにされる。 「お前さ、もしかしてオレに喧嘩売ってる?」 「とんでもない」  山岸はすぐに否定したけど、本当かどうかは怪しい。  信用してないぞ、と睨んでやったら、山岸は困ったように苦笑した。 「失敗しても気にしないで頑張っている和海さんが好きだ、って言っているんですよ」  風に乗った一言は、他愛もなく耳に入ってきた。  それは、とても新鮮だった。  「落ち着きがない」とは何度も言われた事があるが、「頑張っている」なんて風に捉えられたのは多分初めてだと思う。  それがオレを好きだと言う理由なのか。  オレよりも頑張っている奴なんて、他にもっといるのに。  たまたま目に止まったのがオレだった、というだけの事じゃないか。  しかも、その目は節穴だ。
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