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だけど、山岸のおかげで昔の出来事をたくさん思い出してきた。
今までの数々の失敗を思い返すと、必ず武威が登場する。
オレが何か失敗する度に助け舟を出してくれたのは、いつも武威だった。
『お前の場合、後悔するだけ無駄』
『何だよ、それ』
『気にするなって言ってんの。俺がフォローしてやるから、お前は好きなように動けよ。その方が 和海には似合ってる』
ばら撒いたプリントの山を前にして、武威とそんな会話をしたのはもうずっと前の事だ。
オレが失敗をしてもめげないのは、信頼しているから。
頑張っているんじゃなくて、安心しているだけ。
何があっても大丈夫って、楽観的になれる。
だから、武威がいなければ、お前の好きなオレじゃないんだよ、山岸。
「頑張っているのは武威だよ。オレは好き勝手に動いているだけ」
オレの行動を先読みして、あそこは気をつけろとか、ここは注意しろとか、いつも手を引いてくれていたんだよな。
それなのに、オレは「分かってるよ」って言いながら失敗するんだよな。
その度に武威がフォローしてくれて。
そっちの方がずっと大変だ。
だけど、最近の武威の態度は今までとは違いすぎる。
忠告はおろか、傍にすらいてくれない。
「オレ、武威がいないと何も出来ないかも」
口にした途端、突然怖くなった。
安心して預けていた背中に、何もなくなってしまったような感覚。
大袈裟かもしれないけど、武威がいなくなるなんて、想像しただけで不安で仕方なくなる。
「何も・・・って事はないでしょ」
オレがあまりにも深刻になってしまった所為か、山岸は少し困ったように頭を掻いた。
そうだよな。
こんな事、山岸に言ってもしょうがないのに。
「でも、例えばその蔵原先輩のポジション、俺になったらダメですか?」
「駄目」
「即答はキツイなぁ」
山岸の乾いた笑いを聞きながら、返事の早さに自分でも驚いていた。
武威がいなくなるなんて、論外なんだよな。
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