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放課後になったと同時に、オレは武威の教室へと向かった。
先に帰ったり、先に生徒会室に行かれないように、教室で捕まえる為だ。
ちょっと話をしたいことがある。
例のカードの事と、宮永が言っていた入学直後のいざこざの事だ。
特に、入学直後にオレが先輩に目を付けられていたという話については、今まで全く知らなかった事だから、できればじっくりと腰を据えて話たいくらいだ。
別に生徒会室でもいいけど、あそこだと余計な横槍が入ってきそうだからな。
「武威ー!」
丁度教室から出てきた所の武威を発見したので、思わず大声で呼び止めてしまった。
廊下にいた生徒たちが一斉にこっちを向いたというのに、肝心の武威は立ち止まっただけで背中を向けたままだ。
何だよ。
聞こえているなら振り返ったっていいだろ。
「武威! 聞こえてるんだろ?」
近くまで駆け寄って腕を掴んで、それでようやく武威はこっちを向いた。
「聞こえてるよ」
普段は寡黙な瞳をちょっと気まずそうに細めて、武威は諦めたように口を開いた。
素っ気無い声と態度だったけど、やっと武威に会えたから少しホッとした。
やっぱり落ち着くな。
深い意味じゃなく、ただ単純に武威が好きだ。
あまりにも普通すぎて、考えた事もなかったけど。
こんな風に、誰かを「好き」と思えるのはちょっと新鮮だ。
オレも武威も何も変わっていないのに、少し景色が違う気がする。
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