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 オレだけが知らない武威って、一体何だよ。 「蔵原先輩が和海さんの事、すっっごい好きだ、って」  勝ち誇ったように言われても、それなら、残念ながらオレでも耳にしたことくらいはある。  周りの奴らは、みんなそう言うから。  だけど、本人の口から言われた事は一度もない。  武威の態度を見ていて、オレがそう感じた事も一度もない。  勿論、友人としてなら好かれていると自負できるが、それ以上の事は自信が持てない。  それなのに、オレは「それ以上」に好きなのだと思う。  武威に「好き」と言われたら、絶対に嬉しい。  面と向かって言われた事ないから、想像だけど。  冗談でもいいから、言ってくれないかなぁ。  そんな事言わないよな、武威は。  オレも、言わないもんな。  気づいてしまったら、冗談でもそんな事は言えない。  そんなに簡単に口にできない。  気づかなければ良かった。  想えば想うほど苦しい。  なのに考えてしまう。  武威が好きだ、と。  その度に想いが深まっていくようで、胸が苦しくなる。  ついこの間まではただの友達だった筈なのに、どこで変わってしまったんだろう。  後輩たちに「恋人じゃない」って笑い飛ばしていた頃が懐かしい。 「『すっっごい好き』か・・・」  オレと武威の関係が、誤解されていると知った時に似た感覚だ。  そんなの周りが言っているだけで、本人はまるっきり無視されている。  所詮、噂になるのなんて嘘の事ばかり。  本人に確かめた奴なんかいないから、そんな勝手な憶測が本当の事のように広まるんだ。  武威は、オレの事なんて・・・。 「和海さん?」 「ごめん、ちょっとダウン」  自分の思考に止めを刺された。 『いくらモテても、男からじゃな』  そう武威が言った時、確かにオレも激しく同意した。  それなのに、今は痛いくらいに突き刺さってくる。  男と付き合うのなんか論外だけど、相手にもよるんだよなぁ。  
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