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それしかないよな、と勝手に納得したのと同時に、顔に冷たくて硬い衝撃が走り、何かに弾き飛ばされて歩いていた廊下に倒れこんだ。
「痛っ・・・てぇ!」
真っ白になった視界が復活して目の前に現われたのは、聳え立つ壁だった。
何故、こんな所に壁が?
今の俺の状態を表すかのようだ。
「何をやっているんですか」
呆れたような声を掛けられて、グワンとする額を押さえながら振り向くと田辺が口調以上の呆れた表情で立っていた。
「壁に、行く手を阻まれた」
「行き止まりなんですから、当たり前です」
田辺は、無残な姿で床に倒れこんでいるオレの鞄を拾いながら冷静にそう言い放った。
言われて見れば、ここは校舎の端で廊下は右に曲がっている。
そうか。
行き止まりか。
だったら仕方ないな。
「考え事でもしていたんですか?」
「んー・・・まぁ、そんなトコ」
鞄を受け取って、曖昧に答えた。
どうしてか、正直に言うには少し恥ずかしい気がしたから。
矢野に言われた事も気になるしな。
田辺も、オレが和を乱しているって思っているのかな。
そういえば、矢野は「田辺も可哀相だ」って言っていたよな。
あれ、どういう意味だったんだろ。
「気をつけてくださいよ。顔に傷でも付いたら、蔵原先輩が血相変えて飛んできちゃいますよ」
「何だよ、それ」
武威が、避けているオレの所に飛んでくる訳ないだろ。
「過保護って事ですよ」
そう言って微かに笑ったのが、無性に気に障ってしまった。
武威に距離を置かれて落ち込んでいるというのに、当然のようにそんな事を言われたからだ。
それから、矢野の捨て台詞も引っかかっている。
武威と田辺の間に、オレの知らない何かがあるという事だろうか。
それが、どういう経緯か分からないが「可哀想」に繋がっているということだろうか。
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