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06
「何やってんだよ」
冷ややかな声を掛けられたのは、田辺と別れた後に向かった下駄箱で武威を待ち伏せている真っ最中だった。
もう放課後なので、ここで待っていれば会えるだろうという名案が浮かんだものの、オレの姿を見られると逃げられかねないので、死角に隠れて待機していたのにあっさりと見つかってしまった。
しかも、武威本人に。
「やー、偶然」
咄嗟に出てきたのは誤魔化しバレバレのセリフだった。
「偶然じゃねぇだろ」
当然の如くあっさり見破られて、厳しい視線と言葉が降りかかる。
帰りを待っていたくらいで、どうしてこんなに機嫌が悪いのか分からないけど、正直に白状した方が後々面倒にならなくていいだろう。
「最近、武威の様子がおかしいから、何かあったのかと思って。つーか、何で分かったんだよ」
白状しながら、隠れていた筈なのにどうして見つかったのか不思議になって訊いたら、途端に武威は呆れたような表情を浮かべた。
「これで隠れているつもりなのが凄ぇよ」
「おかしいな」
完璧だと思ったのに。
首を傾げて真剣に考えるオレを見て、武威が少し笑った。
本当に久々に見る武威の笑みだ。
「お前は・・・」
何かを言いかけた武威だけど、言葉に詰まったように先が続かない。
久しぶりに、武威の空気が柔らかい。
「顔、どこかにぶつけたのか?」
いつもの雰囲気になりつつあって少しほっとしていたら、表情が険しくなった武威に不意に訊ねられた。
顔?
そう言えば、さっき壁にぶち当たったな。
でも、顔を見てすぐに分かるような怪我はしていない筈なんだけど。
「さっき壁に激突したんだけど、そんなに目立つか?」
コブでも出来ているんじゃないかと心配になりつつ額を撫でた。
触った感じだと、別にどうにもなってないけど。
「少し、赤くなってる」
「そのくらい、いつもの事だろ」
ちょっと赤くなっているくらい、どうって事はない。
何しろ、転んだりぶつかったりなんてオレにとっては日常茶飯事なのだから。
「そうだったな」
そう言った武威の寂しそうな顔を見て、どうしてか胸が痛くなった。
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