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「思わないんですか? 抱かれたいって」  一通りの出来事を掻い摘んで打ち明けると、その頃には平静に戻った山岸にあっけらかんとそう言われてしまった。  随分と簡単に言うのは、他人事だと割り切っているからか。 「思わないって言うか、そこまで考えた事がないって言うか・・・」  武威は好きだけど、さすがにそこまで思考は進んでいないんだよな。  延長線上にあるのは分かっているつもりなんだけど、オレの中ではまだ別物なんだよ。 「でも、我慢できるって言ったんですよね?」 「言ったけど・・・」 「だったらそんなに悩む事ないじゃないですか。そうなっても構わないんでしょ?」  山岸のように単純に考えられればいいけど、オレはもっと最悪な事態まで考えてしまっている。 「けどさ、もしかしたら、遠回しにオレを嫌いって言っているのかもしれないだろ」  嫌いだから、二度と近寄らないように、ああいう事を言ったという可能性はゼロではない。  どうして突然、そこまで嫌われてしまったのかは謎だけど。 「何でそうなるんですか」 「友達だと思えないって言われたし」 「和海さんだって、友達だって思ってないんでしょ?」  そこまできっぱり断言されると戸惑う。  確かに、武威は他の友達と同じではない。  好きだと自覚した時点で、普通の友達だと思えなくなってしまった。  だけど、これはオレの理屈だ。  武威の「友達だと思えない」がオレと同じ意味で使われたなんて、都合の良い解釈に過ぎない。 「それに、俺が蔵原先輩だったら、嫌いな相手にそんな事は言いませんよ」  何の根拠があるのが知らないが、自信満々に山岸が言う。  山岸の意見が参考になるのかは不明だけど、聞いておいても損はないだろう。 「本当に?」 「言うんだったら、好きな子に言います」  真っ直ぐで、偽りとは思えない明朗な声音だ。 「それも、一番大切な人に」 「お前は、一番大切な人に抱かせろって言うのか」 「そうじゃないです! 大切な人だから、そういう気持ちになるまで待ちたいって意味です」  これは、オレを慰めてくれているのだろうか。  山岸の言葉で、少し安心した気がする。  単純だな、オレも。
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