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そもそも、オレと武威を付き合わそうとしているのに、どうして山岸がオレに告白をしなければならないんだ?
それは逆効果なのではないのか?
現に、武威はオレから離れて行ってしまった。
「嘘を吐いた事は謝ります。でも、そいつの事は怒らないでやって欲しいんです」
「どうしてオレが怒るって思うんだ?」
「だってお節介でしょ? 頼まれもしないのに勝手に掻き回して」
不思議には思うけど、怒りは湧いてこないな。
事情がよく分からないっていうのが本音だけど。
「それじゃ、山岸は好きでもないのにオレに告白したって事か」
どの部分が嘘だったのか確認しようと呟いたら、山岸はぐったりと項垂れてしまった。
「好きでもないって訳じゃないですけど・・・」
山岸の「好き」に嫌な感じがしなかったのは、そういう意味で本気じゃなかったからか。
妙にさっぱりしているな、と思ったんだよな。
振られても全く気にしていないようだったし。
何か訳がありそうだ、というオレの勘はあながち外れてはいなかったらしい。
「オレと武威が上手くいく為の、お前の役割って何なんだ?」
「良く分からないですけど、俺が言われたのは、とにかく和海さんに付き纏って馴れ馴れしくしろってだけです」
その命令は忠実にやってのけたな。
初めて声を掛けられて以来、気が付くとその辺にいる気がする。
しかし、山岸がオレの周辺をうろつくようになってから、武威に距離を置かれているのだから、やっぱり逆効果なのではないだろうか。
と言うことは、今のオレと武威の状態は山岸とその背後にいる黒幕の所為だという事か。
これは、ちょっと怒ってもいい所だよな。
「お前の事は、怒ってもいいのか」
「はい。殴るなり蹴るなり、好きにしてください」
やけに神妙な山岸を見て、やっぱりこいつは憎めない奴だと思った。
「ある奴」をちゃんと庇っている。
オレに名前を教えられないのは、脅されているからではなくて、護っているからなのか。
随分軽い奴だと思っていたけど、そういう部分もあるんだって知れて、どうしてか嬉しくなった。
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