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「その同室の奴とは、どうなったんだ?」 「どう、と言われましても・・・」  しどろもどろに言葉を濁す。 「山岸の、一番大切な人なのか?」  そんなオレの質問に、山岸は気まずそうに顔を逸らすだけだったけど、その照れたような表情で十分だった。 「オレに近づくように頼んだのも、そいつ?」  返答は無かった。  でも、きっとそうなんだろう。  寮の部屋割りを調べれば、この陰謀の黒幕が誰なのかもすぐに分かるかな。  護ろうとしている山岸には悪いけど、本人に訊かないとこっちの気が収まらない。  一体どこからどこまでがそいつの企みなのか。  すぐに偽者だと見破ったから例え本物が出てきても問題ないけど、本物が名乗り出たらどうする気だったんだ? 「そんなに難しい顔しないでくださいよ」  色々と考え込んでいると、山岸が申し訳なさそうにそう言った。 「もう、余計な事しないようにしますから」  寂しそうに言うと、「それに」と続けて呟いた。 「最近は矢野も煩いし」 「え?」  何気ない山岸の呟きを聞き返した時、遠くの方から怒声に似た叫び声が聞こえてきた。 「あーーーーーっ!!」  声の聞こえた方を見やると、矢野がこちらに向かって突進してくる所だった。  矢野の話題が顔を出した瞬間の登場なんて、絶妙のタイミングだな。 「山岸! お前、また荻野先輩と一緒にいるのかよ」  ドタドタとやってきた矢野は、迷う事なく山岸の前で止まり責めるような口調でそう言った。  昨日も思ったけど、矢野は何に対してそんなに怒っているんだ? 「先輩、こいつの言う事は信用しないでくださいね!」  首を捻っていると、今度はオレに矛先が向けられた。  勢いが良いから、圧されてしまう。 「こいつ、先輩に告白なんかしてるけど、本当は田辺と付き合っているんですから!!」  正義感に燃えた矢野の叫びは、一瞬ではあるが間違いなくオレの時間を止めた。  隕石が落下したのかと思った。  もしくは、痛くない鈍器で頭を殴られたのかもしれない。  そのくらい精神的に衝撃を受ける一言だった。
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