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「・・・・・・田辺?」  それは、二年生の生徒会役員で、やたらと冷静で何を考えているか分かり難いあの田辺の事か?  田辺?  あの田辺と、この山岸が?  そう言えば、田辺は寮生だったな。  山岸の寮の同室が田辺という事は、有り得なくはない。  同級生だという事以外に接点がないと思っていた後輩二人が、実はそういう仲だったとは、世の中は分からないよな。 「それについては、後々説明しようと・・・」 「先輩も先輩です。何で蔵原先輩じゃなくてこいつなんですか!?」  山岸の言い訳には聞く耳を全く持たない矢野の矛先は、依然としてオレに向けられている。  見当違いもいい所だ。 「おい、山岸」  自分でも意外な程冷静な声音が出た。  驚きすぎて、全体的に麻痺しているのかもしれない。 「矢野の言った事は本当か?」  「嘘なんか言いませんよ!」と騒ぐ矢野の声は聞き流して、山岸の返答を待つ。 「・・・はい」  オレが怒っていると思い恐縮しているのだろうか、緊張感のある声が返ってきた。  と言う事は・・・。  さっき言っていた一番大切な人は田辺か。  それに、山岸にオレに近付くように言ったのも田辺なんだな。  黒幕が田辺だというのはかなり意外だったけど、納得できる部分もある。  そっか。  田辺だったら、隙を見つけてオレの鞄に封筒を入れる事も可能だろう。  あのカードに、宛名も差出人名も無かった理由も分かる気がする。  山岸がすぐに偽物だと気付かれるのも想定内だったのだろう。  田辺なら、あの「好きだ」という文字を誰が書いたのか、オレが気付かない筈が無いと分かっているだろうから。  オレを騙そうとしたのは良くないが、悪意があった訳ではないだろうから責められないな。  ずっとオレと武威の関係を見ていただろうから、もどかしくて背中を押したのかもしれない。  何しろ、山岸曰く、オレが武威を好きなのは全校生徒が知っている事らしいから。 『これでも応援しているんですから』  ようやく、田辺が何を応援しているのか分かった気がする。  そういう事か。  後輩にまで気を遣わせていたとは。  田辺がこんな風なお節介を焼いてくれるなんて、長い付き合いだけど知らなかったし、少し意外だったけれど。
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