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◇ ◇ ◇
先輩の蔵原武威という人物には、矛盾があると思っていた。
初めて会ったのは中等部の時。
生徒会に入って知り合った先輩で、高等部になっても生徒会の先輩後輩という関係は変わっていない。
一見、無愛想で無骨な印象を持たれ近寄りがたいように思われるが、実はそうでもない。
いつも一緒にいる、彼と同級生の荻野和海先輩が対照的に親しみやすい人な所為か、蔵原先輩の周りの空気も意外と柔らかいのだ。
基本的に面倒見が良いらしく、文句を言いながらも何かと周囲の世話を焼いている姿が目につく。
特に、荻野先輩に対しては別格。
よく何かにぶつかるし、しょっちゅう転んでいる人なので、心配になってしまう気持ちはよく分かる。
けれど、少し過保護なんじゃないかと思う時もある。
「またですか」
「何が」
偶然目撃してしまった場面に呆れて呟いた一言に、ビリビリと紙切れを破り捨てる蔵原先輩は不愉快そうにこちらを見た。
「それ、荻野先輩への手紙でしょ」
蔵原先輩の手によって、風に乗るほどに千切られてしまった紙を指して訊いた。
他人宛の手紙を、よりによって千切ってしまうなんて、常識では考えられない所業だ。
しかし、蔵原先輩には悪びれた様子はこれっぽっちもない。
それどころか、当然の事のように言い放つ。
「差出人が『捨ててくれ』と言ったんだ。和海に見せる必要ないだろ」
必要の有る無しの問題ではなくて、事実を知らせるべきだ、と思うのは間違っていない筈だ。
まぁ、わざわざ目の前の先輩と口論してまでして通す事でもないので、口には出さないが。
荻野先輩は所謂「人気者」だ。
可愛い顔立ちの上、キラキラとした表情がとても眩しい。
成績は良いが、思慮深いタイプではないので、寄って来る者に全く警戒心を持たない人懐っこい性格。
どこにでも溶け込めて、中心にいても違和感がない。
本人にそんな自覚がないから、ますます自然。
荻野先輩の側は、他の先輩の側よりも居心地がいい。
そう思っているのは、一人や二人ではない。
恐らく、一番そう感じているのは蔵原先輩だろう。
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