08 (田辺)

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   「見せる必要をなくしたのは蔵原先輩でしょ」  人気者に寄ってくる馬の骨を、蔵原先輩は片っ端から蹴落としているのだ。  本人には内緒で。  と言うか、知らないのは本人だけ。  否。  もしかしたら、荻野先輩も薄々は気づいているのかもしれない。  それは本人に訊いてみないと分からないが。  あの人に限って言えば、気づいていない可能性の方がかなり高いな。 「どうせ、また脅して諦めさせたんじゃないですか?」 「俺は考え直せと言っただけ。諦めるのは奴の意思だよ」  荻野先輩に近づくには、まず蔵原先輩という壁と乗り越えなければいけない。  ただの友人として近寄りたいのならそれほど難しくはないが、下心なんてあろうものなら、 その壁は高く険しく冷たく襲い掛かってくる。  つまり、とても大雑把に言うなら、「和海と付き合いたかったら、俺の許可を得ろ」という事だ。  許可なんて出る訳がないが。 「大体、荻野先輩宛の手紙が、どうして先に蔵原先輩の手に渡っているんですか」 「今時、下駄箱はないよな」 「・・・確かにそうですけど、だからって取ってきちゃダメでしょ」 「そのままにしておいて、和海が男なんかと付き合ったらどうするんだ。男だぞ、男。お前、責任取れるのか?」  さすがに責任は取れない。  が。  荻野先輩だって、嫌なら断るだろ。  それを、わざわざ先回りして圧し折るとは。
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